副収入を得るためや、一時的な転勤時の留守宅管理の一環として、マンションを貸し出す方もいるでしょう。たとえ一室であっても、マンションを貸し出しているからには収入を得ます。そして、収入を得るからには税金を計算して納めなければなりません。そのため、マンションを貸すと必ず税金が増えると考えている方もいるかもしれませんが、反対にこれまでより税金が減ることもあることをご存知でしょうか。 この記事ではマンションを貸したときに必要な知識として、経費や確定申告にまつわる情報を解説します。マンション賃貸で損をしたくないと考えている方は、参考にしてください。なお、この記事では税金にまつわる一般的な制度について解説します。個別具体的な税金計算については、税理士にご確認ください。
マンション賃貸に関係する税金
マンションを貸すときに課される税金としては、次のような種類が挙げられます。
マンションを賃貸することでかかる税金 | マンションを所有することでかかる税金 |
---|---|
所得税・復興特別所得税 住民税 | 固定資産税 都市計画税 |
個人事業税 |
所得税・復興特別所得税
所得税とは、個人の所得に課される税金です。所得税の計算では「収入」と「所得」を区別します。収入は売上や給与など、受け取ったお金です。この収入から「経費」や「控除額」を差し引いて残った額が「所得」です。
たとえば、年間家賃収入が120万円・経費が20万円であれば、所得は100万円です。実際の課税所得額は各種控除計算も必要なため、さらに計算は複雑です。
税法では「そのお金をどのように得たか」により、10種類の所得に分類されています。賃料収入は、「不動産所得」です。ただし、賃貸できる独立した独立した室数がおおむね10室以上、もしくは独立家屋がおおむね5棟以上の場合は「事業所得」として扱われます(いわゆる5棟10室)。
不動産所得・事業所得のどちらとして扱うかは、個別具体的な事例により異なります。そのため、ご自身がどちらに該当するかは税務署、もしくは税理士に相談してみてください。マンションを1室貸しているだけであれば、不動産所得と認識していいでしょう。
そして、不動産所得は総合課税の対象です。総合課税とは対象の所得のすべてを加算し、その合計金額に対し課税される方法で、主に次の所得が該当します。 (参考:総合課税制度|国税庁)
- 不動産所得
- 事業所得(株式などの譲渡による事業所得は除く)
- 利子所得・配当所得(源泉分離課税分を除く)
- 一時所得(源泉分離課税分を除く)
- 雑所得(株式などの譲渡・源泉分離分は除く)
- 譲渡所得(土地建物及び株式などの譲渡は除く)
給与所得や事業所得などと合算し、次の表のとおり課税されます。
(所得金額 × 税率 – 控除額 = 所得税額)
課税所得金額 | 所得税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円〜1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円〜3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円〜6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円〜39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円〜 | 45% | 4,796,000円 |
所得税には累進課税が採用されているため、課税所得が増えれば増えるほど税率が上がります。税率ごとに控除額があるとおり、基準額を超えた部分のみに高い税率が適用されます。所得200万の場合、1,949,000円までが所得税率が5%、1,950,000円を超えた部分の所得税率が10%です。 所得税率5%から10%の段階に所得が上がったとしても、いきなり所得税額が2倍になるわけではありません。所得1,949,000円なら所得税は97,450円、所得2,000,000円なら、所得税は102,500円です。
たとえば、給与所得が650万円であれば、所得税額は「6,500,000円 × 20% – 427,500円 = 872,500円」です。ここに追加して100万円の不動産所得を得た場合には、総所得が750万円となり、所得税額は「7,500,000円 × 23% – 636,000円 = 1,089,000円」となります。
なお、平成25年から令和19年(2037年)までは、東日本大震災からの復興を目的とする「復興特別所得税」も徴収されます。復興特別所得税の税率は、基準所得税額の2.1%です。所得金額ではなく、「所得税額」の2.1%とされているため注意してください。
住民税
住民税も所得金額をもとに計算される税金です。「所得割 + 均等割」の合計額が課税されます。所得割は、「課税所得金額」の10%(都道府県民税4%・市区町村民税6%)から税額控除(住宅ローン控除など)を差し引いた額です。
均等割は、「都道府県民税1,500円」、「市区町村民税3,500円」の合計5,000円で、課税所得金額によって変わりません。
個人事業税
もし事業規模でマンションを貸し出す場合は、個人事業税も課税されます。個人事業税は、税法の法定業種により税率が決まります。不動産貸付業・駐車場業などは第1種事業であるため、税率は5%です。
納税額の計算式は「( 所得金額 – 事業主控除290万円 ) × 税率5%」です。この場合は家賃収入も不動産所得ではなく、事業所得として申告することになります。
固定資産税・都市計画税
所得税や住民税は所得(利益)にかかる税金ですが、固定資産税・都市計画税はマンションを保有しているだけで課税されます。固定資産税は土地・建物などの固定資産にかかる地方税で、入居者ではなく所有者に課税されます。
固定資産税の計算式は、「固定資産税評価額×税率1.4%(標準税率)」です。固定資産税率は自治体によって異なる場合もありますが、ほとんどの自治体では標準税率である1.4%を採用しています。
都市計画税は、市街化区域にある土地・建物に課税されます。マンションは市街化区域内に位置することも多いため、課税されている方も多いのではないでしょうか。都市計画税の計算式は、「固定資産税評価額 × 税率0.3%(上限)」です。都市計画税率も自治体により異なります。
なお、住居用マンションに対しては固定資産税・都市計画税の軽減措置が儲けられていることも特徴です。主な軽減措置は次のとおりです。
築5年までの新築マンション
固定資産税 | 都市計画税 | |
---|---|---|
建物 | 床面積120平方メートルまでの部分は、新築後5年間は課税評価額が1/2に軽減 | 軽減措置なし |
小規模住宅用地 (200平方メートルまで/一戸あたり) | 土地の課税評価額が1/6に軽減 | 土地の課税評価額が1/3に軽減 |
一般用住宅地 (200平方メートル超/一戸あたり) | 土地の課税評価額が1/6に軽減 | 土地の課税評価額が1/3に軽減 |
築6年以上のマンション
固定資産税 | 都市計画税 | |
---|---|---|
建物 | 軽減措置なし | 軽減措置なし |
小規模住宅用地 (200平方メートルまで/一戸あたり) | 土地の課税評価額が1/6に軽減 | 土地の課税評価額が1/3に軽減 |
一般用住宅地 (200平方メートル超/一戸あたり) | 土地の課税評価額が1/3に軽減 | 土地の課税評価額が2/3に軽減 |
固定資産税と都市計画税は、どちらも1月1日の所有者に課税されます。納期は年4回で、一般的には4月、7月、12月、2月とされています(一括納入も可能)。毎年かかる費用であるため、あらかじめ資金計画に入れておきましょう。
マンションを貸したときに収入(売上)となるもの
マンションを貸したときにかかる所得税・住民税などは、不動産所得に応じて計算されます。この不動産所得の計算式は、「収入(売上) – 経費(費用)」です。ここでいう収入には、次のような項目が含まれます。
- 毎月の家賃
- 駐車場賃料
- 管理費・共益費
- 礼金
- 契約更新料
申告漏れにならないように、どのような収入が不動産収入となるのか知っておきましょう。
毎月の家賃
毎月の家賃は、マンションを貸す際に受け取るメイン収入です。立地や設備にもよりますが、月10万円〜程度が相場でしょう。1室を賃貸している場合は、年間120万円〜程度の収入になります。
駐車場賃料
部屋と合わせて駐車場を貸し出すときの賃料も、不動産収入の一つです。駐車場賃料は家賃に含めるケースもありますが、いずれにせよ不動産収入として申告する必要があります。
管理費・共益費
マンションの共用部分・設備(エレベーター・階段・エントランスなど)を維持管理するための管理費・共益費を借主へ請求している場合も、不動産収入として計上します。
礼金
初期費用として、不動産を貸したことに対する謝礼である「礼金」を受け取ることもあります。礼金は入居者に返却しないため、不動産収入として計上しなければなりません。なお、礼金については地方によって名称が異なり、関西地方では「敷引き」と呼ばれるケースもあります。どのような名称であっても、借主に返却しない金銭は売上として計上してください。
契約更新料
2年など期間の定めがある普通借家契約を更新した場合、契約更新料を受け取ることもあります。この契約更新料も、不動産収入の一つです。
売上にはならない収入例
さて、ここまで売上として計上する収入を紹介しましたが、マンション賃貸の実務で受け取るお金の中には、不動産収入として計上しない金銭も存在します。代表例は次の2つです。
- 敷金
- 保証金
敷金や保証金は、家賃滞納時や退去時の修繕費に充当するために預かる金銭です。借主から預かっているだけのお金であるため、受け取り時点では売上ではなく「預り金」として計上します。 これらの預り金は、賃貸借契約の終了時に清算します。たとえば、返還せずリフォーム費用として充当するケースでは売上として計上します。具体的な記帳方法については、税理士に相談しましょう。
マンションを貸したときに経費(費用)となるもの
さて、不動産所得(収入ー経費)を計算するためには、経費(費用)に該当する支出についても知らなければなりません。マンション賃貸の経費にはさまざまな種類がありますが、代表的な費用としては次のような例が挙げられます。
- 固定資産税・都市計画税
- 火災保険料・地震保険料
- 減価償却費
- 管理費・修繕積立金
- 仲介手数料・賃貸管理手数料
- 不動産会社(賃貸管理会社)との打ち合わせ費用
- 修繕費・ハウスクリーニング費
- 融資利息
- 税理士や司法書士などへの専門家報酬
それぞれの費用例について、どのような場面で発生するのかみていきましょう。
固定資産税・都市計画税
前述した固定資産税・都市計画税は、経費として計上できる税金です。マンションの評価額によっては比較的高額になる経費であるため、忘れずに計上しましょう。
火災保険料・地震保険料
自宅にかける損害保険料は経費となりませんが、賃貸用物件にかける火災保険料・地震保険料といった損害保険料は不動産収入を得るための経費と認められます。
減価償却費
減価償却とは建物や設備などの償却資産の購入費用を、単年で計上するのではなく法定耐用年数に応じた期間にわたって計上する会計制度です。マンションは住宅用鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造の建物に該当するケースが多く、この場合の耐用年数は47年とされています。
減価償却費は、実際に支出が発生するわけではありませんが経費計上できます。そのため、不動産所得を減らしつつ、現金を手元に残すためには重要な経費項目です。毎年いくらの減価償却費を計上するかは物件によって違ってくるため、税理士に確認してみてください。
管理費・修繕積立金
マンションの管理組合・管理会社へ支払う管理費や修繕積立金も経費計上できます。もし自分で物件管理をする場合は、マンションまで移動するための交通費・ガソリン代、管理用品(掃除用具や消耗品など)も計上可能です。
仲介手数料・賃貸管理手数料
入居者の募集を不動産会社に依頼するケースでは、仲介手数料もかかります。また、入居後の管理業務も、不動産会社(管理会社)に委託可能です。これらの業者に支払う費用も、不動産収入を得るためにかかった費用として計上できます。
なお、仲介手数料は宅地建物取引業法において貸主・借主それぞれ0.5か月分(合計1か月分)が上限とされています。ただし、承諾を得ている場合は貸主・借主のどちらか片方のみが1か月分を負担しても構いません。実務的には借主が仲介手数料1か月分を負担し、貸主は入居者募集のための広告費を支払うケースが多いです。この広告費も不動産会社へ支払う費用ですから、経費として計上できます。賃貸管理手数料には上限などの決まりはありませんが、一般的には家賃収入の5%程度で設定されているケースが多いです。
不動産会社(賃貸管理会社)との打ち合わせ費用
入居者募集や契約関係・管理関係の業務に伴って支出した不動産会社(賃貸管理会社)との打ち合わせ費用も、不動産所得にまつわる費用として計上できます。
修繕費・ハウスクリーニング費
入居者が暮らし始める前に、壁紙を張り替えたり水周り設備を入れ替えたりするケースもあるでしょう。また、入退去時にはハウスクリーニングするオーナーも多いです。これら修繕費・ハウスクリーニング費も経費として計上できます。
融資利息
住宅ローン・融資を利用してマンションを購入した場合、支払った利息は経費にできます。ただし、元本返済部分は経費にはできません。毎月一定額を返済する元利均等返済では、その一定額の中に元本と利息が含まれるため注意してください。
税理士や司法書士などへの専門家報酬
不動産所得を申告するために、税理士に相談・依頼した場合の税理士報酬も経費の一種です。また、マンション賃貸を含む不動産賃貸業では、登記関係の業務を司法書士へ依頼することもあるでしょう。このような専門家への報酬も、すべて経費にできます。
経費にはならない支出例
経費を多く計上すれば節税効果は高まりますが、先述した融資元本返済部分のように経費としては認められない支出もあるため注意してください。まず大前提として、不動産事業に関係のある支出のみが経費となります。プライベートな会食や交通費を含めないよう注意してください。
また、記事冒頭で紹介した税金種類のうち、所得税・復興特別所得税・住民税も経費にはなりません。これらは個人にかかる税金ですから、不動産事業の経費とは認められません。固定資産税・都市計画税は不動産にかかる税金であるため、経費にできます。
そのほか、マンション賃貸に関係する資格として宅地建物取引士・マンション経営管理士・賃貸不動産経営管理士などのテキスト購入・受験費用なども計上したい方もいるかもしれませんが、これら資格取得費用も不動産所得の経費にはなりません。どのような支出が経費として計上できるかについて、個別具体的な確認は税理士に相談しましょう。
マンションを貸すと税額が増える可能性のある税金
マンションを貸すと税額が増えるのではないか、と心配している方もいるかもしれません。当然、マンションを貸すことで所得が増えれば、次の3種類の税額は今よりも増えるでしょう。
- 所得税
- 復興特別所得税
- 住民税
税額は増えますが、不動産事業でキャッシュフローを生み出せていれば、手元に残る現金は増えます。賃貸後にどのくらいの儲けが残るかについて、一度計算してみてもいいでしょう。
マンションを貸すと節税できる?
さて、マンションを貸すと節税できると聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。マンション賃貸を含む不動産賃貸では、先述した経費計上以外に「損益通算」という制度を利用できるため、不動産所得の状況によっては今より支払う税金を減らすことも可能です。
記事冒頭で、不動産所得は総合課税の対象と紹介しました。たとえば不動産所得が100万円、給与所得が1,000万円であれば、所得税・住民税の課税対象額は1,100万円です。このように、不動産所得がプラスの場合は納税額が増えます。しかし、もし不動産所得がマイナスであれば、「他の所得のプラス」と「不動産所得のマイナス」を相殺できることが節税ポイントです。
不動産所得では「減価償却」によって、キャッシュフロー上は儲けがあるものの、会計上は損失が生まれることがあります。たとえば、不動産所得の損失が120万円、給与所得が1,000万円であれば、損益通算後の課税対象所得は880万円となるため、給与所得のみの場合と比べて納税額を減らせるのです。実際の税金を計算してみましょう。所得税の税率の一部を再掲します。
課税所得金額 | 所得税率 | 控除額 |
---|---|---|
6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
計算対象は、次の3パターンです。
- 給与所得1,000万円 + 不動産所得100万円 = 課税所得1,100万円
- 給与所得1,000万円のみ = 課税所得1,000万円
- 給与所得1,000万円 – 不動産所得の損失120万円 = 課税所得880万円
それぞれ所得税を計算してみます。
- 課税所得1,100万円 × 税率33% – 控除額1,536,000円 = 2,094,000円
- 課税所得1,000万円 × 税率33% – 控除額1,536,000円 = 1,764,000円
- 課税所得880万円 × 税率23%ー控除額636,000円 = 1,388,000円
すべての計算例で給与所得はおなじ1,000万円ですが、不動産所得の有無によって納める税額は大きく変わります。3パターン目の不動産所得に損失があるケースでも、この損失が減価償却費の場合は実際の支出が発生していないため、納税額を減らしつつ手取りを増やせます。
マンション賃貸に関わる確定申告
給与所得しか受け取っていない場合は会社側が年末調整してくれるため、特段の事情がなければ確定申告する必要はありません。しかし不動産収入がある場合、収入および経費とまとめて不動産所得を計算し、確定申告しなければなりません。これからマンション賃貸を始める方のために、あらかじめ知っておきたい確定申告のポイントについて紹介します。
- マンションを貸して確定申告が必要になるケース
- マンション賃貸に関わる確定申告の種類
- 不動産所得にまつわる税金・確定申告の相談相手
マンションを貸して確定申告が必要になるケース
家賃収入があるからといって、確定申告をする必要があるということではありません。確定申告が必要になるのは、不動産所得が(総不動産収入額から必要経費を引いた金額)が20万円を超えるケースです。
たとえば、勤務先で年末調整されており、給与所得と不動産所得以外に所得がないケースです。不動産所得が20万円以下であれば、確定申告する必要はありません。ただし、ほかの副業収入として雑所得・事業所得などがあり、それらの所得と不動産所得の合計が20万円超となる場合は確定申告をする必要があります。
また、不動産所得が20万円以下でも、給与収入が2,000万円を超える会社員や年末調整を受けていない方も、確定申告をしなければなりません。
なお、不動産所得が赤字の場合、確定申告をしなければ損益通算できません。給与所得や事業所得の黒字と不動産所得の赤字を相殺して還付金を受けとりたい場合も、義務ではありませんが確定申告してください。
確定申告が必要であるにも関わらず申告していないと、無申告加算税などの追徴課税を受ける可能性があります。確定申告が必要かどうか分からない場合には、必ず税理士・税務署へ相談しましょう。
マンション賃貸に関わる確定申告には種類がある
一口に確定申告といっても、実は「白色申告」と「青色申告」の2種類があることをご存知でしょうか。それぞれの特徴は次のとおりです。
比較項目 | 白色申告 | 青色申告 |
---|---|---|
帳簿 | 必要 | 必要 (複式簿記) |
確定申告時の添付書類 | 収支内訳書 | 決算報告書 (賃借対照表と損益計算書) |
事業開始時に必要な届出 | なし | 開業届 所得税の青色申告承認申請書 |
青色申告特別控除 | なし | 10万円控除 (事業的規模なら55万円 or 65万円) |
青色申告を選択すると10万円控除が適用され、さらに事業的規模(いわゆる5棟10室基準)なら55万円、さらに電子申告なら65万円控除を受けられることが特徴です。青色申告するためには、あらかじめ「開業届」と「青色申告承認申請書」を税務署へ提出しなければなりません。なお、この届を出していないと、自動的に白色申告とされます。
白色申告には、青色申告のような優遇制度はありません。しかし、事前の届出も不要かつ簡易帳簿での記帳で構わないため、会計に詳しくなくても対応しやすいことが特徴です。青色申告と白色申告のどちらで確定申告しても構いませんが、不動産所得の申告でメリットが多いのは青色申告です。
- 青色申告特別控除(10万円 or 55万円 or 65万円)
- 純損失の繰越し・繰戻しが可能
- 少額減価償却資産の特例が利用可能(取得価額が10万円以上30万円未満の場合、取得価額の全額を取得した年に計上できる)
- 青色事業専従者給与を必要経費として計上可能(事業的規模に限る)
もし青色申告を希望する場合は、次の期限内に「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があることも覚えておきましょう。
- 開業日から2か月以内(1月15日以前に開業した場合は3月15日まで)
- 青色申告を始める年の3月15日まで
不動産所得にまつわる税金・確定申告の相談は税理士へ
税理士法において、税理士以外が個別具体的な「税務相談」に対応することは、たとえ無料であっても禁止されています。確定申告の手伝いはもちろん、具体的な納税額の計算や、控除できる税額計算、課税標準の計算方法のレクチャーなどが個別具体的な税務相談に含まれ、これらは税理士でなければ対応できません。
不動産所得にまつわる確定申告経験のある知り合いがいたとしても、個別具体的な相談は税理士に依頼しましょう。なお、一般的な税の計算方法などを紹介することは税理士以外でも対応できます。
マンション賃貸で使える節税ポイント
マンションを貸すことで課税される税金をなるべく抑えるためには、次のポイントを意識してください。
- 適切に経費計上する
- 青色申告特別控除を利用する
- 損益通算する
それぞれの節税ポイントについて解説します。
適切に経費計上する
まず、マンション賃貸に要した費用は、漏れなく経費計上しましょう。経費を計上すればそれだけ会計上の利益(不動産所得)を減らせるため、必然的に納税額も減らせます。ただし、マンション賃貸に無関係な経費まで計上することは節税ではなく、脱税になってしまうので注意してください。
青色申告特別控除を利用する
先述したとおり青色申告特別控除を適用すれば、条件に応じて10万円 or 55万円 or 65万円を控除できます。マンション1室を貸し出すケースであれば10万円控除となると考えられますが、経費以外で控除できる額としては大きいでしょう。
青色申告するためには開業届や青色申告承認申請書の提出以外に、毎年の確定申告で決算報告書(賃借対照表と損益計算書)も提出しなければなりません。さらに、複式簿記での貴重も求められます。難しく感じるかもしれませんが、昨今では会計ソフトも充実しているため、もし節税にこだわる場合は青色申告に挑戦してもいいでしょう。もちろん、税理士に確定申告を依頼しても構いません。
ただし、会計ソフトも税理士も、手数料が発生します。もし不動産所得が少額で節税効果が大きく見込めない場合は、自分で白色申告したほうが手元に残る現金が多いケースもあることは覚えておきましょう。
損益通算する
先ほど紹介したとおり、不動産所得で損失が出ている場合は損益通算によって給与所得や事業所得と利益を相殺できます。高収入であるために所得税・住民税負担が重いと感じている方は、不動産所得ならではの減価償却によって節税を試みてもいいでしょう。
なお、不動産所得の損失として土地取得に要したローン(融資)利子に相当する金額は、損益通算の対象とはなりません。自分一人で具体的な計算が難しい場合は、税理士に確定申告を依頼しましょう。
不動産所得を含む確定申告の流れ
確定申告は所得があった翌年の2月16日〜3月15日に、住民票のある地域を所管する税務署へ申請することとされています。昨今では電子申請も可能であるため、あらかじめe-taxソフトやマイナンバーカードを用意しておけば、自宅から確定申告を完結させられます。
確定申告シーズンが近づくと、市町村役場や商工会などで無料の確定申告相談会が開かれるので、はじめての確定申告に不安がある方は相談してみてください。不動産所得を含む確定申告の流れは次のとおりです。
- 確定申告に必要な書類を集める
- 会計帳簿をまとめる
- 確定申告書・添付書類を作成する
- 確定申告書・添付書類を提出する
- 期限内に納税する
それぞれ概要を紹介します。
確定申告に必要な書類を集める
まずは、確定申告に必要な書類を集めます。主な書類は次のとおりです。
- 源泉徴収票(会社員の場合)
- 固定資産税通知書
- 不動産関連の書類(賃貸契約書・家賃送金証明書など)
- 借入金の返済予定表
- 各種経費の領収書
会社員として年末調整を受けている場合は、給与所得の額について源泉徴収票から確認できます。「支払金額」の欄は、いわゆる年収です。年収から給与所得控除を差し引いた金額が「給与所得控除後の金額」の記載額で、この数字が給与所得です。
固定資産税通知書は自治体から届いているため、失くさずに管理しましょう。賃貸契約書・家賃送金証明書などをはじめ、不動産所得の確定申告は必要書類が多いことが特徴です。確定申告期限に間に合わせるためにも、スケジュールには余裕を持たせておきましょう。
会計帳簿をまとめる
収入や経費、借入・返済の記録は、お金の動きがあったタイミングごと会計帳簿に記録していきましょう。時間が経つと、記録漏れが発生するかもしれません。この帳簿情報をもとに確定申告書を作成するため、お金の動きには十分注意してください。
確定申告書・添付書類を作成する
帳簿情報がまとまったら、確定申告書・添付書類を作成します。主な作成書類は次のとおりです。
- 確定申告書(第一表と第二表)
- 青色申告決算書不動産用(青色申告の場合)
- 収支内訳書不動産用(白色申告の場合)
青色申告決算書と収支内訳書は、それぞれ不動産所得用のものが用意されているため、間違えないよう注意してください。これらの書類は手書きでの作成も可能ですが、会計ソフトや国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」を利用すればPC・スマートフォンからも作成できます。計算間違いを防ぐためには、PC・スマートフォンから作成したほうがいいでしょう。
一例として、収支内訳書に記載する項目例を紹介します。
- 貸家・貸地などの種別
- 用途・所在地
- 賃借人の氏名・住所・賃貸契約期間
- 貸付面積・賃貸料
- 礼金・権利金・更新料
- 保証金・敷金
なお、不動産所得が黒字であれば住民税も課税されますが、源泉徴収されると勤務先に不動産所得があることが分かってしまいます。もし勤務先に不動産所得の存在を知らせたくない場合は、確定申告書第二表の住民税の徴収方法で「普通徴収(自分で納付)」を選んでください。これを申告すれば、給与以外の所得にかかる住民税は納付書での支払いとなるため、勤務先に不動産所得の存在を知られることはありません。
ただし、もし不動産所得が赤字で給与所得と損益通算する場合は、勤務先が源泉徴収する住民税額が減少します。そのため、「普通徴収」を選択しても勤務先に不動産所得の存在が知られる可能性があります。多少の減少であれば医療費控除などを申告したと思われるでしょうが、あまりに住民税額が少なすぎると、不動産所得の存在を疑われるかもしれません。もっとも、副業禁止規定のある企業でも、不動産賃貸は副業とされないことも多いです。
確定申告書・添付書類を提出する
確定申告書や決算書・収支内訳書が完成したら、添付書類と合わせて税務署へ提出します。提出方法は次の3つです。
- 税務署窓口へ直接提出
- 税務署へ郵送
- e-Taxによる電子申告
会計ソフトや「確定申告書等作成コーナー」を利用して書類を作成する場合は、そのままe-Taxで簡単に申告できます。もし自分での作成・申告が難しい場合は、税理士に委託してください。
期限内に納税する
確定申告は、書類を提出して終わりではありません。算出した所得税額を期限内に納税する必要があるため、忘れずに対応してください。なお、不動産所得が赤字のケースなどで還付金がある場合は、後日指定口座に振り込まれます。
マンション賃貸に関わる税制でよくある疑問
最後に、マンション賃貸に関わる税制でよくある疑問について紹介します。
- 家賃収入が非課税になる範囲
- 家賃収入の手取り額
- マンションを貸す相手によって税金は変わるのか
これらの疑問を解消し、不安のない状態でマンションを貸し出せるようにしましょう。
家賃収入が非課税になる範囲
給与所得のある方がマンションを貸す場合、不動産所得が20万円未満の場合、確定申告の必要はありません。そのため、家賃収入ではなく不動産所得によっては非課税となることがあります。また、不動産所得のみを得ている場合は、基礎控除額48万円以下であれば税金がかかりません。
家賃収入の手取り額
マンションを貸すことで、納税後にどれだけの手取りが残るのか気になる方も多いでしょう。結論とすると、家賃収入の手取り額は税金よりも「家賃収入」と「必要経費」、「融資返済額」に左右されます。空室が長く続けば収入は減りますし、修繕やリフォームが発生すればそれだけ手取りが少なくなります。
また、融資返済は利子部分以外を経費にできませんが、毎月必ず発生する支出です。家賃収入と融資返済のバランスが崩れると、会計上は利益が出ているものの現金が残っていないという事態に陥る可能性もあります。
マンションを貸し出す際は、税金計算の前にキャッシュフロー計算をし、毎月どのくらいの現金が手元に残るか把握するようにしてください。
マンションを貸す相手によって税金は変わるのか
マンションを貸す相手により、所得税や住民税が変わることはありません。これらは、自身の所得によってのみ税額が決まります。また、固定資産税や都市計画税も不動産の評価額によって決まるため、貸し出し相手によって前後することはありません。
マンションを貸す相手によって変動する可能性があるのは、消費税です。住宅用の家賃収入(管理費や共益費、礼金を含む)は、消費税がかからないとされています。しかし事務所・オフィスなど事業用としてマンションを貸し出す場合は、家賃収入も消費税の課税対象です。借主が個人・法人であるかどうかは関係なく、マンションを借りた目的が事業用なら消費税の対象とされます。
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まとめ
マンションを貸して不動産所得を得た場合、原則として確定申告をする必要があります。収入が増えれば納める税金も増えますが、減価償却を活用して不動産所得を赤字とし、給与所得や事業所得と損益通算することで手元に現金を残しつつ節税をすることも可能です。マンション賃貸に関わる税制には複雑な箇所もありますが、上手に活用して資産形成しつつ節税することをおすすめします。
不動産所得の確定申告は、不動産所得用の青色申告決算書・収支内訳書が用意されていたり、マンションの減価償却計算が必要だったり、他の所得の申告よりも複雑なことが特徴です。お金を受け取る場面でも、礼金は売上とするものの敷金は売上にはならないなど、はじめてマンション賃貸に取り組む方には帳簿付けのハードルが高いかもしれません。もしマンション賃貸にまつわる税制に疑問点がある場合は、後々のトラブルを避けるためにも早めに税理士へ相談してみてください。